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なにかあったのは間違いない。けれどその事を尋ねても何も言わないだろう。新太と揉めたのか。いや、揉めたというより、彼女自身の問題なのかもしれない。
合宿の打ち上げで、さくらに向かって放った棘。あれがとうとう刺さったのだとしたら。
さくらは今、ゲーマーとしての新太を守るために、彼から身を引こうとしている。けれどまだ迷っている。そう考えれば説明がつく。
彼女が苦しむことはわかっていた。深く新太を想っていることは一目瞭然なのだから。ただその姿を目の当たりにしてしまうと、司の胸も苦しくなる。自分が思うような流れになっているとしても、嬉しさよりも痛みのほうが強い。
けれどそうまでしてもさくらをあの男から引き離したかった。初めてさくらが本気で好きになったあの男を。司はしばらく逡巡したあと、思いきって口を開く。
「見たほうがいいんじゃないの?」
「え?」
びっくりしたように、さくらが司を凝視した。その提案は計算でも打算でもなかった。それが良いのか悪いのか司にもわからない。
実際新太は勝負勘を取り戻して勝ち続けるかもしれないし、やっぱり調子が悪いままなのかもしれない。どんな結果であったとしても、それはさくらにとって必要なプロセスであるような気がした。
「あいつが本気モードでプレイしてるとこ、生で見たことないだろ? 見てみなよ。奴がやっていること。やろうとしていること」
「三井くん……」
今日はじめてさくらが司をまっすぐに見つめた。司も揺れるその瞳をしっかり捕まえるように見つめ返す。
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