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エキシビションマッチ当日。ゲームセンターの狭い待合室で対戦の順番を待つ間、新太はじっとイヤホンから聞こえてくる音楽に耳を澄ましていた。
ドア越しに時折聞こえる歓声と、アップテンポで流れるバックミュージック。今行われている対戦を喚起させる音をシャットアウトして、まず頭を空っぽにする。いつものルーティンだった。
不意にさくらの悲しそうな、苦しげな表情が脳裏をかすめた。
(あ……)
ぷつん、と集中がとぎれてしまう。目をあけて大きくため息をついた。
最後にさくらに会ったあの日のことをまた、思い出してしまう。
それまで普通だったさくらの様子が、急におかしくなった。ひどく切なげな、いっそ苦しげといってもいいくらいな辛そうな表情を浮かべていた。
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