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ずっと通っていたゲームセンターの、なじみのある台だからクセは覚えている。新太はスティックの感触に納得して頷く。
それから斜めに三つ並んだ操作ボタン二列、計六つの操作ボタンをうえに、右の掌を軽くのせた。頭のなかで素早く、戦略のアウトラインをなぞってから、新太は大きく息を吐いて呼吸を整える。
ゲーム台のうしろにはギャラリー用の大型モニターにゲーム映像が映し出され、二体のマッチョなファイターキャラが向かい合う。
その巨体を揺すりながら睨みあって戦闘開始のコールを待っている。
会場から潮がひくようにざわめきがおさまり、ギャラリーの視線が薄暗い会場を照らす大型モニターに集まる。
これから繰り広げられようとしている試合へ、焦れるような期待が渦巻いて、会場の熱気はこれ以上ないほど高まっていく。
対戦直前のピリピリと張り詰めたその空気は、新太の闘争本能を煽る。乾いた唇を舌先でペロリとなめてそんな自分を宥めた。
雰囲気に煽られすぎて前のめりになっても失敗することは経験上わかっている。目の前にある少し古びたモニターを焦がすくらいの勢いでみつめて、己を集中させていく。
(大丈夫。いける。自信をもて)
自分自身に言い聞かせるための小さな呟き。その自己暗示は、ゲームに没入する合図になる。新太のまわりからすべての雑音が消えた。
『ROUND1 FIGHT!』
低音の電子ボイスが場内に響き渡った瞬間、うぉーという地響きのような低い歓声があがった。
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