第十六章 交錯する心

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 1試合(ゲーム)目。神谷と新太がそれぞれ1ラウンドをとったあと、最終ラウンドから神谷の攻撃が明らかに変わった。圧倒的な勢いで攻撃を仕掛けてきたのだ。それに押されたままKOまで持ち込まれ、神谷に先行されてしまった。  続く2試合(ゲーム)目1ラウンドもその勢いのまま積極的に攻めてくる。このまま一気に勝ちにいくという、神谷のいつもの意志表示だ。  防戦一方になったところで、神谷が繰り出してきた怒濤のコンボに見事にはまってしまい一発KOを浴びてしまった。  (このままでは大介さんの思う壺だ)  新太は深呼吸した。アジア大会でもこういう局面から崩れてダメになってしまったのだ。空気に呑まれてはいけない。自分に言い聞かせる。  2ラウンド目は新太から仕掛ける。多少技を食らってもラッシュし、神谷のキャラを画面の端にじわじわ追い詰める。  神谷も新太の動きに不意をつかれたのか、滅多にみせない隙がちらりとのぞいた。その、ほんのわずかな隙に食らいつく。目にも止まらぬ早さで永久コンボのコマンドを叩き込んだ。  回し蹴りの嵐が炸裂し、神谷のキャラが吹っ飛んだ。画面を覆ったKOの文字に新太は小さくガッツポーズする。対面に座っている神谷が、ふっと微笑んだのがゲーム台の隙間から見えた。 (くっそ。やっぱ大介さん、余裕だよな)  新太も苦笑する。ここまできたらもう死力を尽くしてやるしかない。残り1ラウンド。新太には後がない。もう一度、意識を集中させるために、スティックを握り直して呼吸を整えた。    
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