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最終ラウンドは攻撃と防御がめまぐるしく入れ替わる、激しい闘いになった。
表示されている両者の体力ゲージの残量ライン、残り時間とも、どんどん短くなっていく。
ここで大技を決めなければ新太の負けはほぼ確定する。逸る気持ちを押さえタイミングを見定める。
しばらく耐えてここだ、という瞬間をようやく捉える。一か八かの必殺技コマンドを叩き込もうとした、その瞬間だった。
『新太くん……』
いきなりさくらの泣きそうな顔が頭のなかに浮かびあがった。新太を呼ぶ、淡く消えそうな小さな声も間違いなく聞こえた。
普段ならギャラリーの歓声すら耳にはいらない。ましてやこんな騒がしい場所で、さくらの声が新太の耳に届くはずがない。それなのにはっきりと耳の奥で響いた。新太は思わず瞳を見開く。
はっと気づいた時は手遅れだった。防御から素早く態勢を整え、コンマ何秒か前に神谷も、大技を仕掛けてきていた。
炎につつまれた激しいパンチの連打を浴びて、新太が使っているキャラが後ろにのけ反りながら宙を舞う。
(やられた……)
スティックを握る力が緩む。ギャラリーの、わあっと沸き返る歓声を遠い世界のことのように聞きながら、画面に浮かび上がったLOSEの文字を呆然と見つめた。
我に返りまわりを見回す。会場は薄暗いうえに、興奮した男たちにびっしり囲まれているから、さくらの姿など見つけることはできなかった。
(気のせい、だったのか?)
新太は大きくため息をついた。もう一度モニターに視線を戻すと、新太が使っていたキャラが無残に倒され、横たわっていた。じっとそれをみていたら悔しさがこみあげてきた。
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