第十六章 交錯する心

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 新太は掌をぎゅっと握りしめる。また神谷に完敗した。髪の毛をくしゃくしゃっとかきあげた。あんなふうに集中力が乱されるのは想定外だったとしても、そこからリカバリーできない自分が不甲斐ないし、まだ努力が足りない。無意識のうちに新太は拳で膝を叩いていた。  これからもまたトレーニング漬けになる。そう思った瞬間、真っ先に浮かんだのは、さきほど見た悲しげなさくらの表情だった。新太は唇を噛み締め思わず顔をしかめる。  視線を落としていたゲーム台に急に陰ができたから、見上げると、神谷が横に立っていた。 「お疲れ」  そういって手を差し出してきた。新太もノロノロと立ち上がると差し出された手を握った。 「ありがとう、ございました」  軽く頭をさげる。ヤッパリ悔しい。まだまだ神谷には届かない。新太は唇を噛み締める。二人の姿に会場から惜しみ無い拍手と歓声がおくられるなか、神谷が小声で新太にささやいた。 「お前、調子戻してきたな。短期間でよく持ち直したじゃん」 「でも結局また大介さんに負けたじゃないですか。負けたら意味ないし」  取り繕うこともせず、ぶすっとした表情のまま新太がそう答えると、神谷は相変わらずかわいくねえなと苦笑した。 「いや、最後の一番大事な局面で、気が抜けたみたいになったのは意味不明だったけど。アレなかったらわかんなかったぜ?」 「あー……」  新太は言葉に詰まる。さくらの声が聞こえた、なんて言えやしない。そんな新太の様子をじっとみつめたあと、神谷が口を開いた。 「お前、今日のイベントに彼女を呼んでたの?」 「え? 呼んでいませんけど」
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