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走って更に五メートルくらいまで近づいた。さくらは女性としては背が高くて百六十五センチ位ある。司も一八〇センチはありそうで、二人のすらっとした後ろ姿をみていると、バランスがとれたお似合いのカップルにみえた。
新太の身長はそこまで高くない。百七十センチを少し超えたくらい。それも腹がたつ。とにかくなんでも腹がたつ。
新太は二人に追いつくと、走ったままの勢いで、さくらの腕を少し乱暴に後ろから掴んだ。さくらが小さく叫んで後ろを振り返った。司も叫び声に驚いて一緒に振り返る。
「あ、新太くん?! どうして?」
さくらはどこか呆然とした調子で呟いた。新太はほぼ全速で走ってきたから、呼吸が乱れてうまく話せない。さくらの腕はしっかり掴んだまま、なんとか息を整える。
「どうして……ってこっち……が聞きたい」
はあはあと荒く肩で息をしながら、やっとそれだけいった。さくらは黙りこむ。新太の荒い呼吸だけがその場に響いた。
「俺が誘ったんだ。さくらを」
気まずい沈黙を破ったのは司だった。ようやく呼吸が落ち着いてきた新太は、体をまっすぐおこし、淡々とそういう司を正面切って睨んだ。
新太はさくらを“さん”づけで呼んでいるのに、人の彼女を彼氏である新太の前で呼び捨てにするのも気にくわない。けれど今はそこを突っ込んでいる場合じゃない。新太は視線をすぐにさくらに移した。
「どうして今日イベントに来るって教えてくれなかったんですか? しかも、この人とこっそり来て帰るとか、あり得ない」
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