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「うるせえな! 黙れって言ってんだろが!」
新太が唸るような低い声で威嚇する。司も臆することなく睨み返して、新太の腕を強く掴む。
「本当のことを言われて激昂するなんて、ガキそのものなんだよ、お前は!」
挑発的な司の言葉に、襟元をさらに強く絞めると、司も新太の腕に圧力をかける。組み合ったまま睨み合う二人に、さくらがやめて! とすがるように叫んだ。それをみた司がため息つく。少しだけ鋭く尖った瞳を緩めた。
「俺が部外者だから、見えることもある。お前が神谷に、試合に勝てずにもがいているのをみて、さくらが苦しんでいること、とかね」
司が噛み締めるように吐き出したその言葉に、新太の頭がふっと冷える。新太が掴んでいた手を乱暴に引き抜いて、司は自分の襟首からはずさせた。
「さくらはお前が知らないところで泣いてるぜ。直近はさっき。お前のプレイをみて、さくらが声を殺して泣いてた。最近さくらの様子が変だって、気づいてなかったのか?」
新太の表情が固まる。新太だってさくらがどこかおかしいことを感じていた。けれどトレーニングに忙殺されてフォローできずにいた。
はっとして、口に手を当てる。
神谷と対戦していた最終ラウンド。全身全霊をかけて勝負に集中していた最中に、いきなり浮かんだ悲しげなさくらの表情、新太を呼ぶ切ない声。
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