第十七章 手を伸ばして

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 イベントの打ち上げがおこなわれている居酒屋の隅で、新太はウーロン茶を飲みながらひとり、黙りこくっていた。あまりにも険しい表情をしているからか、誰も話しかけてこない。新太も誰とも話したくなかったから丁度よかった。  本当はさっさと帰りたかった。けれどゲーマーはみな打ち上げに参加しているのだから来いと、神谷に強引に引っ張られてしまい、帰るわけにはいかなくなってしまった。 「めちゃくちゃ暗いオーラ出してんな」  宴もたけなわ、皆が席を移動しはじめた頃、ビールジョッキをもった神谷が新太の隣に座るとそう話しかけてきた。 「大介さん、そういえばありがとうございました」 「何が?」  神谷がジョッキに残っていたビールを一気に煽って、おねえさんおかわりをお願い! そう叫んでから新太のほうに向き直った。目の縁が赤い。神谷もそこそこ飲んでいる。 「俺がゲーセンから飛び出していったとき、なんかアシストしてもらったみたいで」  ああ、といって神谷が思いだしたように笑った。 「新太、腹こわして焦っているから道あけてやってくれってマイクで叫んだやつ?」  神谷の機転のおかげで、新太がいなくなっても怪しまれなかったし、帰ってきて機嫌が悪そうに黙っていても、皆そっとしておいてくれたのだ。 「さっきのイベント、ネット中継されてたからさ。”ARATA 腹こわした“がSNSで急上昇トレンド入りしたって聞いてマジうけたんだけど」  神谷は楽しげにそういったけれど、新太の反応は薄い。 「ふーん、そうすか……」  興味なさそうに相槌をうつ新太をちらりとみて、一呼吸おいて神谷が尋ねてきた。
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