第十七章 手を伸ばして

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「で、会えたの? さくらちゃんと」 「ええ、会えましたよ」  新太は深くため息をつく。さくらに言われた言葉を思い出すと、そのたびに体が震えそうになる。  あの後、さくらはぽつりぽつりと話しだした。 『新太くんのために何かをしたいって思ってた。だけど、新太くんは私がいると、トレーニングに集中できないんだよね。私の存在自体が新太くんの集中力を奪っちゃうのだから』  一瞬言葉を失った後、慌てて否定したけれど、さくらは悲しげに首をふるだけだった。 『新太くん自身もわかっているはずだよ』  さくらは勘違いしている。新太なりに言葉を尽くしてそう言っても、さくらに響いていかない。いつの間にかできてしまっていた壁に呆然とする。 『それにね。私もいけないの。新太くんがトレーニングしていると、別の世界にいってしまうみたいで怖かった。切なかった。  ゲーマー、やめてくれないかなってふと思うこともあったの。でもさっき神谷さんと戦っているの姿を見てね、新太くんはヤッパリすごいゲーマーなんだって実感したの。  やめるなんてありえない。神谷さんは世界でも指折りのゲーマーで、その人と堂々と戦っているんだもん。観ていた男の人たちがみんな熱狂してた。口々に神谷さんや新太くんのプレイはすごいっていってるの。あのふたりは天才だって』  さくらが悲しげに微笑んだ。 『ゲーマーやめてほしいなんて少しでも思ってしまった私が、新太くんの邪魔をしちゃいけない。側にいちゃいけないんだよね……』
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