第十七章 手を伸ばして

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 売り言葉に買い言葉。神谷が怒鳴ってまた、その場をしーんとさせる。  大介さんも新太もいい加減にしてよと、まわりのゲーマー達からため息まじりで言われ、わりいわりいと神谷が苦笑して手をあげて謝る。それからちょっと真面目な表情になって新太をみた。 「俺にも本気で好きになった女いたんだ。昔な」 「え?」  神谷の顔をみる。少し赤いものの、芯から酔っぱらっているわけではなさそうだった。 「その話、初めて聞きます」 「まわりに言ったことねえもん。本邦初公開。だから心して聞けよ?」  そういって神谷は目尻にちょっとしわを寄せて笑った。 「今から十年も前になるのかな。俺、スーパーで働いてたって話、してたっけ?」 「それは聞いたこと、あります」  そう答えた新太に神谷が頷く。 「高卒で入社して、五年目だったかな。短大卒の女の子が事務ではいってきたんだよ。里奈っていうんだけどさ。一目みたとたん、すげえかわいいって思ったら止まらなくなって、目が勝手に追いかけちゃってさ。新太じゃないけど一目惚れだよ。とにかく俺から押しまくって、つき合うようになったんだ」  昔を思い出すように目を細めた。 「丁度そのころ、ゲーマー一本で生きていくかどうか、悩んでいた時期だったんだ。アメリカの大会で初めて優勝したとき、今も支えてくれてる会社がスポンサードを申し出てくれて。  勤務時間不規則なスーパーで働いて合間にゲームして、デートして、なんて、もう絶対的に時間が足りないじゃん。スポンサーがつけば仕事やめてゲーム一本に没頭できるからな」 「まあ、そうですよね」  新太が神妙に頷くと神谷はまたビールを煽る。
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