第十七章 手を伸ばして

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  「里奈は……泣いて俺に仕事やめないでくれっていってたっけ。今だってプロゲーマーなんて結構怪しげな職業だろ。十年前なんかもう、超意味不明な仕事だったわけよ。ゲームやってカネもらうとか、そんなのおかしいだろうよ、みたいに言われてさ。    社会的認知度なんてほぼゼロ。もしかしたらゼロ以下だったかもな。スーパーの正社員をやめてプロゲーマーになるなんて世間一般の常識じゃありえなかった。まあそんな時代だよ。    里奈とのつきあいはうまくいっていたんだ。あいつも俺のこと好きになってくれてさ。俺とずっと一緒にいたいって言ってくれていたし、俺だって勿論そう思ってた。だから正直、仕事を続けるかやめるか、かなり迷ってた」  過去を振り返りながら話をしている神谷は、いつになく穏やかな顔をしていた。 「それでもやっぱり俺はプロゲーマーになることを諦められなかった。だからこうして、今もやっているんだけどさ。  里奈も説得すればきっとわかってくれるはず。そう思って俺は退路を絶って、スーパーの仕事をやめてから里奈を説得したんだ。ま、今思えばこれもまずかったんだろうな」 「まずいって、どうしてですか?」  神谷は昔の自分をみるような、そんな目をして新太をみていた。 「彼女だって色々考えてる。将来のことやら、なんやら。それを男のロマンじゃないけど、俺の夢についてこいとか相談もなく言われたら、こんな男についていけないって普通思うよな。演歌の世界じゃないんだから。    そこで呆れられても仕方なかったけど、里奈は俺と一緒にいようと努力してくれた。一緒に暮らして、俺を支えてくれたんだ。スポンサーがついたとはいえ、ギリギリの生活だったからね」
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