第十七章 手を伸ばして

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 いったん言葉をきってどこか遠くをみつめた神谷は自嘲するように小さく笑った。 「大介のことはすごく好きだった。でも一緒にいても寂しくて、辛かった。大介はいつも別の世界にいるから。もう一緒にいるのは無理だって」 「あ……」  新太が思わず呻く。神谷がすっと新太に視線を向ける。 「どうした?」 「……俺もさくらさんに同じようなこと言われました。俺がゲームをやってると別の世界いってしまうようで怖いって」  神谷は、ああと小さく呟いて苦笑した。 「集中すると周りが全くみえなくなるとこ、俺ら似てるからな。他にはなんて言われた?」 「さくらさんの存在が、ゲーマーとしての俺の邪魔になるから、側にいないほうがいいんだって言われました」    新太は泣きたくなる気持ちを吐き出すように、大きくため息をついた。 「俺の側にいるのが辛いって言われた気がして。あんな風言われたら、何もいえなくなって、あいつと二人で帰ってしまうさくらさんを止めることができませんでした」  新太がうつむいた。しばらく沈黙が落ちて、神谷がビールを飲む気配がした。 「お前さ、アジアツアーのとき、大丈夫かよってくらい調子悪かったじゃん。このままズルズル悪い状態が続くかなって思っていたけど、さっき対戦した感じじゃ、調子、上向いてるよな?    正直こんな短期間でもちなおすって思ってなかったんだよ。帰国した直後、空港じゃ燃え尽き症候群みたいな状態だったのに。復調のキッカケって何かあった?」    急に話題をかえて神谷が尋ねてきた。新太が顔をあげる。 「キッカケ……ですか」
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