第十七章 手を伸ばして

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 記憶を手繰りよせる。アジアツアーが終わったあと。ぼろぼろの状態で夜、部屋にたどりついた。あの時は本当になにもやる意欲が湧かなくてどん底だった。このまま格闘ゲームの世界からフェードアウトしてもおかしくないくらいに、疲弊しきっていた。  悪夢までみて、まだ夜もあけきれてない朝方目がさめて。心許ない気持ちのまま、さくらに連絡したら、朝一番で駆けつけてくれたのだった。  さくらを抱き締めていたら、薄暗かった部屋に朝日が差したようになった。やさしくキスしてくれたときだって、かじかんでいた心がほぐれていき、まるで新太の苦しみを一緒に引き受けてくれた気がした。  そのまま抱いてしまったけれど、あれは新太が抱いたのではなく、さくらが新太を抱いてくれたのだと、今ならわかる。  細い腕で一生懸命抱き締めてくれた。何度も背中をさすってくれた。新太が激しく求めたときには、同じように強く求めてくれた。  激しい行為のあと、静かに寝息をたてて眠ってしまった寝顔がいとおしくて、思わず額にキスをしていた。そうして気がついたら、渇れ果てたはずの気力がいつの間にかまた、湧き出していた。  絶対にこんなところで終わったりしない。そう思う強い意志がたちあがってきて、新太はひとり起き上がってトレーニングを始めたのだ。 「あ……」  大きく瞳を見開いた新太を見て、神谷が笑う。 「そのキッカケ作ってくれたのってさくらちゃんじゃないの?」 「そう、でした」  神妙な顔で頷く新太に、やっぱりそうだと思ったと神谷が目を細めた。
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