第十七章 手を伸ばして

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「今までスランプらしいスランプ、なかっただろ。普通だったらこんなに早くリカバリーしてない。邪魔どころか、さくらちゃんがいなかったらお前、まだ低空飛行していたぜ」  神谷は新太のほうに向き直る。目と目を合わせてから、ゆっくりと口を開いた。 「俺も里奈にずいぶん助けられし励まされた。だけどきちんと言葉として、気持ちを伝えきれていなかったんだよな。彼女はしっかりしているから、きっと全部わかってくれている。そういう甘えもあった。    でもさ、ヤッパリちゃんと言わないと伝わらないんだよ。もっと里奈と真剣に向き合っていたらって、つくづく思う。失ってはじめて気づくんだよ。いかに大事な存在だったかってね。いくら悔やんでも、悔やみきれない」 「大介さん……」 「ま、それで俺は、時間も気力も体力も全部、格ゲーに注ぎこんで、中途半端にはしないって決心したんだけどな」  淡く笑って、まっすぐ新太をみた。 「ずっと一緒にいたい、いてくれなきゃ駄目なんだって心の底から思うなら、がむしゃらにでも手を伸ばして彼女を捕まえておけ。そうしないとたぶん、一生後悔するぜ。俺みたいにな」  その言葉が重くじわりと染みて、胸につまった何かを押し流してくれるようだった。新太はしばらく黙った。ゆっくりと顔をあげて強い瞳で神谷を見返す。 「さくらさんの手を今放したら、俺、一生後悔する自信がありますから。たとえ振られたって諦めません」  神谷は片方の眉をあげてニヤリとした。 「やっと、おまえらしいふてぶてしさが戻ってきたな」 「ふてぶてしいって……酷くないですか?」  拗ねた口ぶりの新太に、神谷は楽しそうに目を細めて、いやそれ誉め言葉だから、といって豪快に笑った。
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