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ふたりの凄さはギャラリーとして周りにいた、男たちの囁きからも明らかだった。彼らが口々にいう。神谷も新太も天才だ。いくら練習したってあれはできない。神谷と新太の対戦に、我を忘れて熱狂していた。
神谷は格闘ゲームの世界大会で何度か優勝しているのだという。負けたとはいえ、新太はそのレベルの人と互角に戦って、評価されている。
並外れた才能をもつ人の側にいるということ。出会った時、新太の意識は遠いところ、普通の人にはみえない高みをみつめている。どこかでそれを感じていた。最初に惹かれた理由はそこだったかもしれない。そしてそんな彼を支えたいと本気で思っていた。
けれど新太は基本、ひとりじゃないと集中できない。さくらの存在そのものが彼の集中を削いでしまう。支えるどころか邪魔をしてしまう。一人相撲だ。
その一方で新太を好きになればなるほど、どす黒い感情に支配されそうになる自分にも気づきはじめていた。
新太が更なる高みを目指し、ゲームの世界に没頭していけばいくほど、彼が一人で遠く行ってしまうような寂しさを感じてしまう。
自分だけを見ていて欲しいという独占欲が膨れ上がる。もっともっともっと。心はどんどん欲張りになっていく。
彼がゲームに集中するたびに、不安や不満を募らせてしまうとしたら? 新太がどれだけゲームに対して心血を注いでいるかわかっているからこそ、今別れるよりもっと辛い別れがきっとくる。
(ちゃんと新太くんに言わなきゃ、ね……)
さくらはたどり着いた教室の前で、おおきく息を吸った。ゆっくりドアをあけて、いつも新太が座っている席のほうへ思いきって視線を向けた。
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