第十八章 ただひたむきに

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 淡々とした口調は、怒っているわけでもなく、悲しそうにも聞こえなかった。感情を表にださないクールな感じはゲーマーのARATAみたいだった。 「ち、ちが……」  実際は避けたのと同然だから、戸惑いと後ろめたさで言葉の端が切れてしまう。 「俺が隣にすわれないような席に、あえて座っているし」  さくらはなんとか首を横に振ってみせる。新太はすっと苦笑を浮かべただけで、それ以上何もいわず、空いたばかりの席にどさりと腰をおろした。  それからさくらに向かって手をのばす。気がついた時には机の下、さくらの掌は新太の大きな手に包まれていた。手を引き抜こうとしても離してくれない。 「新太くん、ちょっと……」  小さい声でそういっても全く動じる様子がない。泣きたくなる気持ちを堪えて新太をみつめると、一瞬、新太の瞳が狼狽えたように揺らいだ。けれど唇をきゅっと噛み締め、すぐにまっすぐ見つめ返してきた。 「もう逃がさない」  ぼそりと呟かれたその言葉に、さくらは思わず瞳を見開く。講師が教室入ってきてざわめきが収まり、新太も視線を前に移した。新太の横顔をみつめるさくらに構うことなく、その掌にゆっくりと自分の指を一本ずつ絡め、ぎゅっと握り直した。  授業が始まっても、新太の右手はさくらの左手と繋がったままだった。左手は頬杖をついていて、ノートを取る気配がない。さくらの呼び掛けに、すっと視線だけを向けてきた。 「ノート取らないの? 手を離さないと……」 「……後でさくらさんのノート、見せてもらうからいい」
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