第十八章 ただひたむきに

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 そういってすぐに視線を正面に戻して、またぎゅっと手を握りしめてきた。クールな表情とは裏腹にどこか子供じみた頑なさは、さくらの言動に傷ついてしまった新太を垣間見るようで、苦しくなる。  一方で、彼の手はとても熱く、そして能弁だった。時々握る手を緩めて、いとおしげに指でさくらの手の甲をなぞるようにして撫でる。  その感触があまりにも優しくて甘くて、そのたびに震えそうになった。新太の手から熱と一緒に伝わってくる想いは、さくらの中に否応なく流れ込んできて、いてもたってもいられないような気持ちにさせられてしまう。  授業が終わった後も、新太はさくらの手を離さず無言で前を見ていた。学生はほとんど出ていってしまったから、教室には数人しか残っていない。 「あの、授業終わったよ?」  さくらの声にはっとしたように身じろぎして、新太はゆっくりと視線をむけてきた。ぴんと張りつめた緊張した空気が流れる。それでもちゃんと話さなきゃいけない。さくらは小さく息を吸い込んだ後、口を開いた。 「……あのね、新太くん」  そういったとたん、新太が繋いだ手をぎゅっと握りしめた。その感触に、言おうとしていた言葉が喉の奥で止まってしまう。気持ちを奮い立たせて、もう一度口を開きかけたその時だった。 「デート、しようよ」  先に言葉を言わせないとばかりに早口で新太がいった。 「デート?」  今の状況にそぐわないその言葉を、思わず聞き返していた。新太は固かった表情を少し緩めて頷いた。
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