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「さくらさんも就活で忙しかったし、俺はゲーム一色で、まともにデートしたことなかったよね」
「あの、新太くん、待って。私デートなんて……」
新太がずっと握っていた手を急に離した。はっとして彼をみる。
「俺と一緒にいるの……嫌?」
ふいに彼が核心に触れてきた。
『私は……新太くんの側にいちゃいけないんだって』
あの夜、新太に突きつけたこの言葉が、ふたりの間に間違いなく横たわっているのを感じた。
新太の表情はあまり変わらない。けれど絞り出したように呟かれたその声は、掠れていた。そのトーンで彼の緊張が伝わってきてしまう。
大好きだから一緒にいたい。だけど一緒にいると苦しくて切なくなる。新太に会ったらそう言おうと決めていたのに、いざとなるとさくらは言葉にすることができない。口にしてしまったら最後、僅かにでも繋がっている新太との糸が完全に切れてしまうのが、やはり怖かった。
「そんなこと、ない」
ようやくそれだけ答える。新太はさくらをじっと見つめたあと、痛みを織り混ぜたような、小さな笑みを浮かべた。
「それならデートしようよ。話も、後でちゃんと聞くから」
そういって視線をはずすと、もう一度さくらの手をとって握りしめた。
ふたりは手を繋いだまま教室をでて、大学構内を歩く。
「行きたいところ、ある?」
さくらは首をふる。デートなんて想定外で、どこに行きたいかなんておもいつく訳がない。
「じゃあ、俺のチョイスでいい?」
黙って頷いたさくらをちらりとみた新太は、そのまま大学の正門をでて駅に向かう。山手線で目黒駅までいき、東急目黒線に乗り換えた。
「あの、新太くん、どこに行くの?」
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