第十八章 ただひたむきに

7/18

250人が本棚に入れています
本棚に追加
/253ページ
「さくらさんも就活で忙しかったし、俺はゲーム一色で、まともにデートしたことなかったよね」 「あの、新太くん、待って。私デートなんて……」  新太がずっと握っていた手を急に離した。はっとして彼をみる。 「俺と一緒にいるの……嫌?」  ふいに彼が核心に触れてきた。 『私は……新太くんの側にいちゃいけないんだって』  あの夜、新太に突きつけたこの言葉が、ふたりの間に間違いなく横たわっているのを感じた。  新太の表情はあまり変わらない。けれど絞り出したように呟かれたその声は、掠れていた。そのトーンで彼の緊張が伝わってきてしまう。  大好きだから一緒にいたい。だけど一緒にいると苦しくて切なくなる。新太に会ったらそう言おうと決めていたのに、いざとなるとさくらは言葉にすることができない。口にしてしまったら最後、僅かにでも繋がっている新太との糸が完全に切れてしまうのが、やはり怖かった。 「そんなこと、ない」  ようやくそれだけ答える。新太はさくらをじっと見つめたあと、痛みを織り混ぜたような、小さな笑みを浮かべた。 「それならデートしようよ。話も、後でちゃんと聞くから」  そういって視線をはずすと、もう一度さくらの手をとって握りしめた。  ふたりは手を繋いだまま教室をでて、大学構内を歩く。 「行きたいところ、ある?」  さくらは首をふる。デートなんて想定外で、どこに行きたいかなんておもいつく訳がない。 「じゃあ、俺のチョイスでいい?」  黙って頷いたさくらをちらりとみた新太は、そのまま大学の正門をでて駅に向かう。山手線で目黒駅までいき、東急目黒線に乗り換えた。 「あの、新太くん、どこに行くの?」
/253ページ

最初のコメントを投稿しよう!

250人が本棚に入れています
本棚に追加