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言われるがままついてきたけれど、目的地が全くイメージできなくて思いきって尋ねた。新太はその日初めて、ちょっと楽しそうに目を細めて笑った。
「俺の実家」
「えっ?!」
さくらの動きが止まる。新太が小さく吹き出した。
「さくらさん、デートで実家に行くのはおかしいって、思いっきり顔に書いてある」
「だって、急に言われても……」
本気で困った顔をしたさくらを見て、新太は笑いながら首を振った。
「家に行くのは、車を借りるから。ドライブしようと思ったんだ。車、取りに行くだけだからそんなに緊張しないで大丈夫。あ、もし家族の誰かに会っても気にしないで平気だから」
「そんな適当な感じでいいの?」
「いいよ。本当に大丈夫」
新太は学校にいる時よりも、リラックスしているようにみえたし、さくらも心が落ち着いてきているのを感じていた。
外の空気を吸って、手を繋いでお互いの体温を感じながら歩く。なんの変哲もない、普段どおりの会話を交わしあう。そうしていたら、ざわめいた気持ちも凪いでしまう。
新太はいつもの雰囲気に戻って落ち着いてから、話をしようとしてくれているんじゃないかと、さくらはこの時気づいた。
手を繋いだ先、彼の横顔をみつめる。三つ年下だからやはり若い。けれどプロゲーマーとして普通では得られない経験を重ねてきた彼の精神は、自分よりも余程大人なのかもしれないとさくらはため息をついた。
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