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「ああ、あれ。聡太が前からずっとうるさく言って来てたし、それに……さくらさんが一緒に行ってくれるなら、いいかなって」
新太はそういって穏やかな笑みを浮かべた。
「弟の聡太くん、面白すぎて話をしている間、笑いがとまらなかった」
聡太との会話を思い出してさくらがくすりと笑うと、新太も苦笑しながら頷く。
「聡太は昔からあんな感じなんです。一人でずっとしゃべってる。最初はつい笑っちゃったりするんだけど、だんだんうるさくなってくるから、俺か、兄貴の太一が黙れっていって殴ると泣き出して、それで俺らが親に怒られるってパターンをひたすら繰り返してましたね。あいつ、一生変わんないな」
その光景も目に浮かぶようで、つい笑みがこぼれてしまう。そんなさくらをちらりとみて、新太が微笑んだ。
「良かった」
「え?」
今度はさくらがまっすぐ前をみる新太の横顔を見つめる。
「さくらさんがずっと笑っていたから。聡太、しゃべりすぎてうるさいけどこういう時は感謝だな」
運転しながら、新太がさらりという。朝から、新太はずっとこんな感じだ。愛おしげにさくらを見つめ、手をつないで、さくらへの愛情をさりげなく伝えることに全くためらいがない。それらが心を満たし、ついには溢れて、気がついたら新太に心がすっぽり包まれている状態になっている。
だからといってあの夜のやりとりを曖昧しておくわけにはいかない。今だからこそ、冷静に話せる。さくらは意を決して口を開いた。
「あのね、新太くん。イベントからの帰り道で、私がいったこと」
「……うん」
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