第十九章 抱きしめたい

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 今度は話を逸らすことなく新太は正面を向いたまま、ちょっと緊張したように顎を引いて頷く。 「私、あのとき、本当に思ったの。新太くんの邪魔しかできないんだったら、側にいちゃいけないって」 「……うん」 「新太くんが神谷さんと対戦しているのをみてよくわかったから。新太くんにとってプロゲーマーであることはもう必然で、才能もあって………私、少しでもいいから新太くんの力になりたいって思っていたのに、結局新太くんの集中を乱すだけで何もできないって実感して……なんだか無力に思えちゃって」 「……」 「そのくせゲームの世界に集中して、没頭する新太くんをみるのも切なかった。自分とは違う世界にいってしまうようで。……こんな矛盾した状態で新太くんの隣にいる資格なんてないし、いちゃダメなんだって思ったら、涙がでてきて、あんなふうに言ってしまったの……」  赤信号で車が止まるや否や、新太の左手が伸びてきて、手をいきなり掴んだから、びくりとさくらの体が震えた。 「覚悟はしてたけど、もう一度それ聞くの、思っていたよりキツいかも」  横にいる新太をみつめる。彼は泣き笑いみたいな表情を浮かべてさくらを見ていた。心臓を鷲掴みされたような痛みが走る。 「運転中にご免なさい。こんな話しちゃって……」  俯くと、新太はさくらの手を握りしめてささやいた。 「車のなかで話を聞く方がいいかもしれないって思って、ドライブに誘ったのは俺だから。面と向かって言われるのは苦しいけど、運転していたら前をみてるし、苦しさが薄まるかと思ったんだけど……」 「新太くん……」 「そんなわけないか」
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