第一章 出会い

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「参ったなあ……」  教室でも一番後ろ、隅の席でさくらはつい声にだしてしまった。慌てて口を押えて横をみる。隣にいる男の子は、さくらの独り言に気が付く様子もなく、机に突っ伏して寝ている。  この授業を四年生で受けているのは、さくらくらいだろう。思わず大きなため息をついた。  痛恨のミス。とっくに受講していたと思っていたのに、違う授業と勘違いをしていたらしい。  必修であるこの授業をとらないと単位不足で卒業できないと気づいたのは、授業登録締切り二日前。慎重なさくらにしてはあり得ないミスだった。  もし気がつかず留年でもしたら。そう思うと冷や汗しかでてこない。  まわりを見渡すと、ほとんどが新入生か、二年生だから教室はどこか初々しい雰囲気に包まれている。来年から社会人になる予定のさくらは、どうみても新入生にはみえないだろう。苦笑がこぼれ落ちた。 (ちょっと前まではわたしも新入生だったのになあ。もうあと一年で卒業なんて早すぎる)  大学を卒業するのは寂しい。けれど留年なんてもっといやだとさくらはひとり笑う。    鞄のなかからパソコンを取り出そうと視線を落とすと、隣の席がいやでも視界に入る。  ふわふわした茶色の髪の毛が寝息と一緒に揺れている。出席を取る授業だから教室にはきたものの、月曜日の一限。寝るつもりでこの後ろの席に座ったのだろう。  教室でよくもこんなに気持ちよさそうに寝るものだとさくらは感心してしまう。
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