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幾重にも絡み合うコード。何台ものディスプレイ。雑然として無機的な部屋に響く微かなモーター音。
それらに囲まれるように配置した椅子にすわり、目にも止まらない速さで叩いてマッチョなファイターキャラを操り、ひたすら同じ動作を念入りに繰り返す。
画面をみつめながらコントローラーを叩いていた新太は、ため息をついてヘッドフォンを外した。
「くっそー。集中できねえ」
1/60秒と言うフレームで感覚を研ぎすませて戦う格闘ゲームの世界。微かな雑念があっても動きが遅れてしまうのに、雑念だらけの頭じゃ、おもうようなパフォーマンスができない。
新太はゲーマーだ。それも生半可なレベルじゃない。格闘ゲーム界隈では名が知られているトップレベルのプロだ。
彼の人生、そのエネルギーのほとんどすべてを格闘ゲームに注いできたといっても過言ではない。
新太がはじめて格闘ゲームをやったのは小学生のとき。自分の手足のよう動く画面上の分身たちが、豪快に敵を倒す爽快感に夢中になった。
両親とも医師で仕事が忙しかったけれど、野放しでゲームをやらせてはくれるような放任主義ではなかったから、目を盗んでゲームに没頭する日々。
家でやるだけでは飽き足らず、おこづかいやお年玉、持ってる金すべてを投入してこっそりゲームセンター、いわゆるゲーセンにも通った。とにかく強い相手と対戦したかった。
ゲーセンには純粋にゲームをやりたい人間も集まったけれど、悪い仲間に引き入れようとする輩も勿論いた。
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