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「でもあのときは確かに聞こえた。頭の中に、さくらさんの悲しそうな声が響いてきて、顔も思い浮かんで手がとまったんです。対戦の真っ最中にそんなふうになるの、初めてで。大介さんも、一瞬変な間があいたって言ってたから、嘘じゃないですよ?」
驚いて表情が固まったままのさくらに新太がそっと微笑みかけた。
「さくらさんが俺から離れていくかもしれない。本能的にそう感じ取ったのかもしれない。……それくらい俺にとってさくらさんは特別なんです。他の誰も代わりになんてなれない。さくらさんだけしか、こんな風に感じない」
「新太くん……」
「だから。俺のそばにいると苦しくて一緒にいられない。たとえあなたがそういっても……。」
新太はぎゅっと握りしめたさくらの手を眼の高さまで持ち上げる。
「この手は離してあげられない」
新太は繋いだ左手の上に右手も重ねて、両手でさくらの手を優しく包む。
「ずっと一緒にいたいから。言いたいことを我慢したりしないでください。俺がゲームに集中しすぎてムカついたら、いい加減にしろって怒って。喧嘩になったら、俺が先に謝ります。なにか揉めるとしたら基本、俺が悪いはずだし」
そういって照れたように笑うその笑顔を、さくらはぼんやりと見つめる。
「さくらさんが苦しそうにしていたら、今度は俺が抱きしめる。さくらさんが部屋に飛んできてくれて、疲れきった俺を抱きしめてくれた、あの朝みたいに。
あなたが俺の傍からいなくなるとか。そんなことを想像するだけで、苦しくなって息ができなくなる。頭がおかしくなる。格ゲーも手につかなくなるかもしれない。だから……え?! さくらさん?」
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