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「すげえな、あいつ。あの状況からのまさかのリカバリー。やっぱり根性が半端ないわ」
司は、声をだして笑ってしまった。
「三井くん、声が大きい」
さくらが唇にひと指し指をあて、しぃーといって苦笑する。大学図書館の玄関ロビーだから話をしていても問題はないけれど、いかんせん声が響く。
卒論の資料をまとめるため、図書館で作業をしていたさくらを見つけて、司が声をかけた。司もずっと気になっていた。あのイベント後、さくらと新太がどうなったのか。
あの夜、司は家までさくらを送っていったけれど、その間、ほとんど何も話せなかった。電話もしたけれど、彼女の性格から考えても、すぐに何かをしゃべるはずもない。とにかく学校で会ったらちゃんと顔をみて、話をしようと考えていたのだ。
図書館でさくらを見つけて、その表情をみたとたんに、話を聞かなくてもわかってしまった。優しい穏やかな空気を纏って、ちょっと照れたように微笑む感じ。新太にまたやられた。司にはすぐわかった。
静まり返った館内では声を出すのも憚られるので、とりあえずロビーまで連れてきて、話を聞いてみたものの、だいたい予想通りだった。
「なんだかお騒がせしてごめんなさい。泣いたりしちゃって心配かけたのに……。」
しきりに恐縮していたが、さくらはあの時、ほぼ間違いなく新太との別れを決意していた。彼女は決して流されやすいタイプじゃないし、多少のことで意志を翻したりしない。それを新太はあっという間にひっくり返してしまったのだから、司としてはもう笑うしかない。
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