第四章 恋情

3/6
前へ
/253ページ
次へ
 小学生の頃から不良と純粋なゲーマーとを敏感にかぎ分けて、巧みに魔の手をくぐり抜け、ひたすら腕を磨いた。そんなふうにして、新太は人生で必要なことは、学校ではなくゲーセンで学んだと思っている。だからこそ、たかがゲーム。そういわれると腹が立つ。  新太にとっては、持っているすべてをかけて打ち込めるのが格闘ゲームの世界だ。さまざまな駆け引き、予測、反射神経、経験値。すべてが噛み合ってこそ勝つことができる。  最高にスリリングな瞬間を得るために、寝る間も惜しんでコンマ何秒のタイミングを探ってコントローラーを叩きまくる日々。    高校生になっていよいよ格闘ゲームにのめりこみ、おおきな大会でも上位に食い込みはじめた新太を、両親が心配しないわけがない。  特に母親とはゲームばりのバトルを繰り広げた。大学なんていかないでプロゲーマー一本でいく。そう主張する新太と揉めに揉めた。  すったもんだの挙句、とりあえず大学をでたら、あとは何をしようと勝手にしていい。そこまで親の妥協を引き出した。  新太は 一度決めたら、やりとげなければ気が済まないタチだ。ゲーマーとしてのハードなトレーニングをしながら、定期テストの勉強もこなして付属エレベーターになんとか乗りきり、新太は親との約束どおりに大学への内部進学を果たした。  それでも家で朝から晩までゲームをしていたら、文句を言われるにきまっている。だから大学入学を機に、賞金などで得たお金を投入して、一人暮らしを始めることにした。  大学に入ったら目いっぱいゲームに集中できる。そう思っていたのに。  そこで、幸か不幸かさくらと出会ってしまった。  そのうえ、会えば会うほど、話せば話すほど、どんどん好きになってしまう。  
/253ページ

最初のコメントを投稿しよう!

250人が本棚に入れています
本棚に追加