第二十一章 ふたりで

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 飛行機が羽田を離陸した後、さくらはシートに沈みこんで安堵のため息をついた。なんとかラスベガスに向かうところまできた。  ここにたどり着くまで、一悶着も二悶着もあった。ラスベガスで開催される格闘ゲームの世界大会を見に行く。さくらがそう宣言した瞬間から、家族内でかなり揉めた。  まず一人旅だという時点で味方になりそうな母親も眉をひそめた。仲良しの女友達と卒業旅行でヨーロッパにいく予定が、卒論を仕上げる一番大事な時期に、行く先はなぜかラスベガス。一緒にいってくれる同級生なんてもちろんいない。  しかも理由は彼氏が出る格闘ゲームの大会を見に行くため。親からしてみたら、行かせたくない理由満載だ。父親はいつも以上に寡黙になり、母親ですら心配だからダメと言い張った。  家族間に波風をたてるのはさくらも本意ではなかった。けれど就職した後では、一月下旬という中途半端な時期に、まとめて休みがとれるかどうかわからない。格闘ゲーム最大の世界大会を観戦するなら今しかチャンスがない。世界を舞台に新太がどんなふうに戦うのか。その姿をどうしても目に焼き付けておきたかった。  さらには一人でラスベガスに行くなんて絶対ダメだと言い張っていた新太にも、さくらの一人旅は秘密にしていた。こんな大胆な行動を起こすなんて、さくら自身が一番驚いているくらいで、思わずひとり笑いをしそうになってしまう。  やる、と決めてからさくらも妥協しなかった。諦めることなく毎日父親と母親を説得した。
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