第二十一章 ふたりで

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『寝室にも神谷大介の書いた本、置いてあったしさ。親父のことだからネットでEVCのこともちゃんと調べてわかってんだろ。ARATAさんはその格ゲー世界大会で優勝候補、ねえちゃんが観にいきたいの当たり前だろ。 ……てか、学校なかったら、俺が行きたいわ!』  最後論点が若干ずれたものの、普段父親とろくに口をきこうとしない、反抗期真っ只中な哲人の援護射撃は大きかった。  気まずい空気が流れたあと、父親はトイレだとか言い訳してその場からいなくなって、思わず哲人と目配せして笑ってしまった。    この後、新太との付き合いを認めたわけじゃないがと前置きしつつ、プランどおりにちゃんとやれるならという条件つきで、父もラスベガス行きを渋々認めてくれたのだった。  父が軟化するきっかけを哲人が作ってくれたことにさくらは心から感謝している。けれどもしかしたら。無我夢中で説得しようとするさくらにも心を動かされ、父は許すきっかけを探していたのかもしれない。機上の人となった今、ふとそんなことも考えたりした。  機内では有り余る時間をひたすら卒論作成に使った。資料やメモなどを確認しながらノートパソコンに文章を打ち込んでいく。この作業はさくらの想像以上にはかどった。  けれど周りの乗客が寝静まり、カチカチ音がするキーボードを叩きづらくなってノートパソコンを閉じてしまうと、思い浮かぶのは新太のことばかりだった。 (新太くん、どうしているかな)  さくらより五日早く、新太は現地入りしていた。もう予選ははじまっている。新太のことだから、空気も切るような集中力で対戦に臨んでいるはずだ。
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