第二十一章 ふたりで

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 一人旅での緊張や寝不足で頭は少しぼんやりしているし、長時間飛行機に乗ったから全身がバキバキに固まっている。けれどさくらの気分は高揚していた。 「私、がんばったよね?」  誰にいうともなく呟いて、クスクス笑ってしまう。まさかひとりでラスベガスにくるなんて、さくらも想像もしていなかった。  海外旅行経験は家族でいったハワイ旅行と学校主催のオーストラリア短期ホームステイくらいで、それらはみな親だったり、引率する教師についていくだけだった。  それがいきなり海外一人旅。しかもさくらの行ってみたい場所にラスベガスはなかった。新太と付き合わなければ一生、来る機会などなかったかもしれない。予想もしなかったことが人生ではおきる。さくらは微笑んだ。  スマホをみると現地時間午後2時前。夕方から始まるセミファイナルを見逃したら、必死でラスベガスまで来たのが水の泡だ。このままベッドに転がっていたら、寝てしまいそうなので無理矢理身体を起こす。  新太は順当に勝ち上がって次はセミファイナル。このままいけば決勝で神谷とあたる可能性が高い。グランドファイナルを日本人対決でみたいとSNSでも随分書き込まれていた。  巨大なホテルだから、EVCが開催されている場所も早めにチェックしないと、迷子になるかもしれない。それにオンラインで買った大会観戦チケットを、窓口でパスポートと購入履歴をみせて入場パスに引き換えしないと会場にはいれない。それから夕御飯の確保も必要だ。  やらなくてはならないことは沢山ある。大きく息を吐いて気持ちを入れ直す。母親に、無事ホテルにチェックインしたことをメッセージ送信した後、シャワーを浴びるためにさくらは早足でバスルームに向かった。
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