第四章 恋情

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 いきなりに大きな渦の中にひきずりこまれて、溺れているような感覚。これが恋ってやつならかなりキツイ。新太は心底おもう。それが片思いならなおさらだ。  恋愛なんて全く興味もなくゲーム一筋だったから、新太は免疫がまるでない。格闘ゲームでいうなら、まだ初心者だった頃、無防備な状態で攻撃に晒され続け、どんどんパワーゲージが減っていくのを黙ってみているしかなかった時に似ている。  さくらの黒目勝ちの瞳でじっとのぞきこまれると、思わず喉がなりそうになる。その瞳が細められて、もっと新太のことが知りたい、そういわれた時。全身がかあっと熱くなってしまい、どうしていいのかわからなくなった。  集中力が乱されてしまうから、さくらに会わないようにすればいい。そう思ってみたけれど、会えない時はさくらを何度も思い出してその姿を頭が勝手に反芻し、その都度悶えてしまっているから、それも意味がないとあきらめた。  やっぱり会えるチャンスがあるなら本人に会いたい。話せないなら遠くからみつめるだけでもいい。    こんなふうに感情を激しく揺り動かされるようなことに出会ったのは、ゲーム以外で初めてだ。  そして。痺れるような切なさを伴う想い以外にも、恋からうみだされる感情があることも新太は初めて知った。嫉妬だ。  カフェテリアで会ったさくらと同級の男。新太をみて面白がるように細められた目をみた瞬間、反射的に睨み付けてしまった。多分あの男もさくらのことが好きだ。新太もさくらのことを好きだからこそ、はっきり直感した。  あのとき瞬間的に沸き上がってきた感情は、間違いなく嫉妬だった。
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