第二十一章 ふたりで

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「わかった。とりあえず黙っとく。新太、今めちゃくちゃ集中してるしな」  その言葉にはっとして神谷を見つめる。 「このあと、勝ち進んでいけば新太くんと対戦することになりますよね?」  神谷は表情を引き締めて頷いた。 「もしそうなっても、今回も勝ちに行くよ。せっかくラスベガスくんだりまで新太を応援に来たさくらちゃんには悪いけどね」  そう言って笑う神谷には王者の風格が漂う。けれどさくらも新太がどれだけ努力をしてきたか知っている。まっすぐ神谷を見つめる。 「新太くんも負けませんよ?」  神谷はおや? というように片方の眉をあげて微笑んだ。 「言うねえ。今にも別れそうだったのが嘘みたいにラブラブで、なによりだわ」 「そ、それは……」  ツッコミに対していちいち赤くなるさくらを、からかって楽しんでいる様子は、対戦前とは思えない余裕がある。神谷はやっぱり別格なのだとさくらは思う。  連絡先を交換していると、スタッフらしい男性が大介さーんと呼ぶ声が聞こえた。 「おっと。そろそろ行かなきゃ。さくらちゃん、またね」 「はい。神谷さんも頑張って下さい」 「おお、ありがと」  手をひらひらさせて歩きだした神谷が、急に足を止めて振り返った。 「そうだ。あのさ」  さきほどまでのくだけた感じはなく、何かを真剣に伝えようとする人特有の、真摯な表情に、さくらの背筋もすっと伸びる。
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