第二十一章 ふたりで

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 格闘ゲーム最大の世界大会『Evolution Champions』通称EVCの会場であるコンベンションホール。これがホテルの一部なのかとさくらは驚くほど広い。下手をすると東京ドームより広いかもしれない。  ホールの中央、舞台上には長い辺が十メートルは超えそうな長方形の巨大スクリーンがどーん、と設置されている。それでもまだ足りないといわんばかりに、それを補う大小のモニターが、高い天井からいくつも吊るされている。  華やかなショーを予告するようにライトが瞬き、大音量のアップビートな音楽と観客のざわめきが入り交じる。会場はもうすでに、熱気と興奮に包まれていた。  さくらの買ったチケットはニ階席。ネットのクチコミで、モニターをみればプレイはよくみえるから、わざわざ高いアリーナ席を買う必要がないと書いてあったし、そもそもアリーナにいたら、新太にみつかってしまう可能性もあるからだ。  けれどさくらはなぜか、アリーナ席最前列ブロック、前から三列目に座っていた。プレイヤーの表情だけでなく、息遣いまではっきり聞こえそうな舞台の真っ正面。正真正銘特等席だ。 (神谷さん、この席よすぎます)  さくらは大きなため息をついた。セミファイナル開始一時間前、さくらのスマホに着信があった。神谷からだった。 『あ、いい席が確保できたからコンベンションホール入り口のとこ、すぐきて。黄色のスタッフTシャツをきた田中って奴がチケット持っていくから。じゃ、ヨロシク!』  早口で一気にそうまくしたてる神谷に、全く口を挟めないまま電話は切れ、さくらはチケットを受け取らざる得なくなってしまった。舞台から距離が近すぎて新太に見えてしまうのではないかと、さくらは気が気ではない。  会場の灯りが落とされ、カラーライトが点滅し、司会者が登場したところで会場は一気に盛り上がる。いよいよ本番。さくらはぎゅっと手を握りしめた。  
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