第二十一章 ふたりで

14/24

251人が本棚に入れています
本棚に追加
/253ページ
 普段のトレーニング中はもちろん、対戦前は鉄壁のポーカーフェイスの新太が、この大舞台で微笑むなんて、もしかしたら想像するほど緊張していないのかもしれない。 さくらの方が震える吐息をつく。    対戦相手はイギリス出身の黒人青年。見た目からして屈強な彼は、ゲームも強そうで、さくらの緊張もどんどん高まっていく。二人は軽く握手したあと、向かい合ったモニターの前にそれぞれ座った。  新太の横顔を見ているだけで心臓が痛くなり、さくらは両手を重ね合わせてぎゅっと握りしめた。そうしないとガタガタ震えてしまいそうだった。  さくらとは対照的に、新太は普段と変わらない。むしろいつも以上に落ち着いているようにみえた。まるで新太のプレッシャーをさくらがすべて吸いとってしまったように。  Round1 Fight! コールが鳴り響き、大歓声のなか対戦がはじまった。  新太は相手から技を受けても動じることなく、冷静にガードし、自分のペースを作る。小さな応酬を重ねながら、ほんの少しでも隙をみつけたら、そのチャンスを逃さず連続技を叩き込んできっちり試合の流れを作っていく。  数ラウンドを落としながらも、終始落ち着いたプレイで、決めるべきタイミングでしっかりとKOを奪い、セットをものにしていく。  ファイナルラウンド、新太の操るキャラが飛び蹴りを鮮やかに決め、相手キャラが豪快にふっ飛んでKOの文字が浮かび上がった瞬間、さくらは我を忘れて立ち上がり、まわりの観客たちとハイタッチしてしまっていた。新太も神谷に続き、無事グランドファイナル進出を決めた。
/253ページ

最初のコメントを投稿しよう!

251人が本棚に入れています
本棚に追加