第二十一章 ふたりで

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 新太がヘッドフォンを外すとき、ちらりとさくらの方をみた気がした。いつもの優しい小さな笑みをうかべて。さくらは慌てて俯いたものの、見つかってしまった気がした。それでも口元は勝手にほころんでしまう。とにかくほっとして全身の力が抜けてしまった。  会場が明るくなったあとも、さくらはしばらく身動きできなかった。ざわめく周りの喧騒、観客が出口に向かう流れを感じながら、ぼおっとしてしまう。心臓はまだドキドキしていて、新太の勝利の興奮が血流と一緒に体中を駆け巡っているのを感じていた。  (凄い、新太くん)  新太のプレイしている姿を思い出してひとり痺れてしまう。ぎゅっと握りしめていた手を緩めたら掌が真っ赤になっていた。どれだけ力をこめて握っていたのだろうと、さくらはため息混じりに笑った。  その時だった。Congratulations! Congrats! そんな掛け声があちこちから聞こえてきた。  顔をあげたときにはもう、新太がさくらの前に息を切らして立っていた。さきほどゲームで真剣勝負をしていたときよりも、よほど必死な顔をしているから、自分の置かれた立場も忘れて思わず笑ってしまった。  もしかしたらそれは、泣き笑いだったかもしれない。大きな舞台に立ち、遠い存在にみえた大好きな人が目の前にいるのを見て、気が緩んで涙がほんの少し滲んだ。 「やっぱりさくらさん! また黙って来てるし! しかも今度はアメリカまで!」  渋い呆れ顔。でも新太の目は本気では怒っていない。さくらは困ったように笑って舌をだした。 「ごめん。来ちゃった」  新太がはあ、とため息をついて、片手で顔を覆った。
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