第二十一章 ふたりで

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 「ここ、アメリカのラスベガスですよ? 来ちゃったって軽く言える距離じゃないですよね?」 「だって、今しかないって思って。就職したらなかなか来れないかもしれないでしょ」 「まさかまた……三井さんと来た、とか?」  ちょっと拗ねた感じで周りに視線を巡らせたから、思わず吹き出してしまう。 「やだ新太くん、神谷さんとおんなじこと言ってる。三井くんと来るわけないよ。授業あるし、一緒に来てくれる友達を見つけられなかったから……えーと、一人できた、の」  最後の方はさすがに声が小さくなる。一方の新太は顔色が変わった。 「は?! 笑い事じゃないし! 一人で来たらだめだってあんなにいったじゃないですか! しかもなんで大介さんが俺より先にさくらさんと話してるの?」    そんな不毛な言い合いをしていて気付くと、まわりに人だかりができていた。EVCファイナリストになった新太とさくらのことを、みんなの人達が興味津々に見ている。サインしてもらおうと待っている人もいた。 「新太くん、周りに人が集まっちゃってる」  さくらが小声で囁くと、新太は、はあああ、とさきほどより更に盛大にため息をついた。 「ちょっと待ってて下さい」  サイン待ちの人にざっとサインだけすると、新太はさくらの手を引いて人波をかき分けガンガン歩きだした。   「さくらさんの泊まってるホテルはどこですか?」  ロビーまで続く長い通路を手を繋いで歩きながら、まっすぐ前を向いたまま少しぶっきらぼうな口調でたずねてくる。 「このホテルに部屋がとれたの。だから外に出なくていいし安全でしょ?」  新太が立ち止まって振り返る。 「安全第一に考えたから。父と母にね、ラスベガス旅行を許して貰うために毎日プレゼンしたんだよ」
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