第二十一章 ふたりで

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 小さな囁くような声。抱き締められた力の強さ。相当心配をかけてしまったことを感じて、さくらは申し訳なくなる。 「ごめんね。どうしても来たくて。本当にごめんなさい」  新太との距離が近すぎて、声がくぐもってしまう。それでも唯一自由に動く右手を新太の背中にまわす。背骨に添わせてゆっくり上下に撫でると力が抜けていき、ようやく腕の力を緩めてくれた。 「黙って見に来るの、本当にもうやめて。ゲーセンにあの人といきなり来たのと合わせて、マジで寿命が十年は縮んだ」    文句をいいながらも、さくらをみつめる新太の瞳は優しい。その柔らかな眼差しがくすぐったい。 「大袈裟だよ」  クスクス笑いながら新太を見上げると、全然大袈裟じゃないから。大真面目な顔でそういって、さくらの額にそっと唇を押し当てた。 「ちょっと君たち! こんな目立つところでいちゃいちゃしないで貰えます? メーワクなんすけど!」  背後から聞こえた声。甘い空気が吹っ飛んで、新太とさくらがぱっと離れる。振り返ると神谷がニヤニヤ笑いながら立っていた。   「大介さん、なんでこんなとこにいるんですか?」  新太が不機嫌な声でそういうと、神谷がひどく楽しげに笑った。 「え、だって新太が対戦終わったあと、飛び出していったからさ。感動のご対面かなって野次馬しにきたら、いやー、予想通りで、ある意味清々しいわ」  新太はなんなんだそれ、といってため息をつきながら苦笑した。 「大介さん、さくらさんが来てたのを知ってて黙ってたでしょ?」  つっけんどんにそう言う新太の腕を、さくらが慌てて引っ張った。
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