第二十一章 ふたりで

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「違うの! たまたまこの通路で会ってね、私が神谷さんに新太くんに言わないでってお願いしたの。あ、神谷さん、凄くいい席、ありがとうございました! よく見えて興奮しました」  ぺこりと神谷に頭をさげると、新太がどういうこと? という顔をしたので、先程さくらが座っていたアリーナ席を都合してくれたのは神谷だと説明した。 「あー、あそこ凄く良くみえたでしょ? ちなみにあのあたりの席、舞台の上、プレイヤーからも良く見えるんだよね、角度的に。俺もさくらちゃんが難しい顔して、こっち観てるのがよく見えたよ」 「え!」  さくらが固まって動かなくなると、神谷がくすくす笑った。新太がプレイ前に微笑んだのは、さくらがしっかり見えていたからなんだと、今さら合点がいって、身の置き所がなくなってしまう。 「新太も最初からさくらちゃん、見えただろ?」  新太は大きく息を吐いて、してやられたというように口をへの字にした。 「あの席にさくらさんが座れたの、大介さんのおかげだったんですね。ありがとうございます。お世話になりました」  新太も素直に頭を下げる。 「あそこならさくらちゃんが見えて安心だし、しかもお前、大舞台だってのにうまく力が抜けていて、いいプレイしてたじゃん。あれってさくらちゃん効果じゃないの?」  神谷の楽しげな表情をみて、新太は不満そうに唇を尖らせる。 「否定できないのがなんか悔しい……」  そうだろ? 得意げにそう言って神谷は微笑んだ。 「まあ、今日は夕飯は誘わねえから。明日対戦すんのに、和気あいあいとしていたら、士気がさがるしな。二人で仲良く食べなよ」
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