第二十一章 ふたりで

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「舞台にあがってさくらさんが見えた瞬間、すごくびっくりしたんだけど、めちゃくちゃ心配そうに、必死な感じでこっちをみてるのがわかって。    さくらさんのほうが緊張してるってわかったら知らないうちに笑ってた。そうしたらね。こんな舞台にたてるなんてすげえな、なんだか気持ちいいなって思えたんだ。そんなふうに感じるのは初めてだった」  その笑顔は、ずっと見ていたい、そう思わせるような、陽だまりみたいに優しいものだった。 「いつも本番は、緊張をテンションに切り替えるために、ギリギリまで気持ちを絞り上げてたんだ。でも今日みたいに、力をぬいてニュートラルな状態になったほうがもっと集中できるんだって初めて知った」 「新太くん……」 「それに気づけたのは、さくらさんのおかげ」  新太はぎゅっとさくらの手を握りしめる。もう離さないとでもいうように。新太の大きな手に包まれている自分の手をみる。今あるこの手の温かさは、こんなにもさくらを安心させ、癒やしてくれる。一緒にいることの幸せを噛みしめる。  新太はさくらの手を引いて歩きだした。ロビーにつくとすぐに開いたエレベーターに乗り込む。十五階でおりて長い廊下を早足で歩き、ある部屋のドアの前で止まった。 「新太くん、ここは? ご飯は食べないの?」 「食べるよ」  新太はにっこり笑って、カードキーをとりだし部屋のドアをあける。 「俺の部屋でルームサービスを頼むから」  さくらの肩をを引き寄せ部屋に入ると、ドアが閉まるのも待ちきれないと言わんばかりに、強くさくらを抱きしめた。
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