第二十一章 ふたりで

22/24

250人が本棚に入れています
本棚に追加
/253ページ
 ドアのオートロックがかかる音が背後で響いて、ようやく世界から、ふたりだけの空間が切り離された。新太はもう遠慮はしないとばかりに、さくらの顔にたくさんのキスを落としていく。  額、目、鼻、頬、耳たぶを食んだあと、唇へ。角度を変えて何度もいとおしむように唇を重ねる。呼吸を吸いとられていくように、さくらの息も次第にあがってゆく。  靄がかっていく意識。恐ろしい早さで高鳴っていく心臓。溺れる人が必死で何かにつかまろうとするように、さくらが新太の肩を強く掴む。  彼の唇が白い首筋をすべっていき、肩と首のあたりでようやくとまる。新太はそのまましばらく動かなかった。 「さくらさんの香り、ほっとする」  安心しきった様子でさくらの首筋に顔を埋めたまま、新太が小さく呟いた。それは激しい鼓動で上下していたさくらの胸を、今度は疼くように波打たせる。  プロゲーマーのARATAは強気でクール。無愛想だったりもする。けれどさくらの前にいる普段の新太は違う。無邪気に笑ったり、拗ねてみせたり怒ったり。さくらを甘やかしたり自分も甘えたり。  他の誰にも見せない部分、強さも弱さも、さくらだけには隠そうとせず素のままを見せてくれる。そんな彼はいま、大舞台の決戦を前にして強いプレッシャーと戦っている。狂おしいほどのいとおしさ。こみ上げてくる強い想いが、言葉になってあふれでる。 「私はいつも新太くんの側にいる。いつだって応援してる。なにがあっても私は新太くんの味方だよ」
/253ページ

最初のコメントを投稿しよう!

250人が本棚に入れています
本棚に追加