第二十一章 ふたりで

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 歌うようにそう囁いて、左手でふわふわな髪の毛を何度も撫でた。新太が顔をあげたから、今度は右手で彼の頬をそっと包む。手の中にいる新太は夢現(ゆめうつつ)の境にいるみたいに、熱に浮かされたような瞳でさくらをみつめている。 「さくらさん……」  唇がゆっくり動く。大切な言葉を紡ごうとしている人特有の、少し張りつめた空気が彼を包んでいて、さくらは瞳を見開く。新太は小さく息を吐いたあと、微かに震える声で囁いた。 「愛してる。ずっと一緒にいて。さくらさんと二人なら、なにも怖くないんだ」  新太らしくない、どこか不安そうな瞳。さくらは泣きたいような、笑いたいようなおかしな気持ちになる。なぜなら、さくらが思っていることをそのまま、新太が口にしたから。    こうして新太に抱きしめられているとさくらがいるべきところにちゃんといるのだとハッキリわかる。  一緒にいればどんなことがあっても怖くない。そんなふうに思える人なんて、この世界で、他に誰もいない。それらをうまく言葉にできないもどかしさを感じながら、さくらは口を開く。 「私も。私も新太くんと一緒にいたい。ううん、ずっと、いる」  結局うまく言葉にならなくて。それでももっとちゃんと気持ちを伝えたくて、彼の唇にそっと自分のものを重ねる。口移しで想いを伝えるように。  新太の体が震えた。ゆっくりと唇を離して至近距離でみつめあう。確かに通じた。そう感じてさくらが微笑むと、新太も熱を帯びた吐息をもらしたあと、いたずらっぽく微笑んだ。 「俺がしつこいのは知ってるよね。今、さくらさんが言った言葉、絶対忘れないよ? 間違いなく一生覚えてるから」
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