第二十二章 未来を掴め

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 グランドファイナル開始十分前。  いつものルーティン。控え室の椅子に座り、新太は目を閉じて音楽を聞いていた。興奮と冷静さ。それらがラップのリズムに乗って、意識のなかで油と水のように弾けあっている。  スタッフから呼び出しがかかって瞼を開ける。ひとつ息を吐いてからイヤホンを外した。代わりにヘッドフォンを首にかけ、アーケードコントローラーを脇に抱え立ち上がる。  案内された舞台袖から感じる、会場のざわめき。その中に愛しい人の気配が確かにある。  今日は新太が、舞台にほど近い席をさくらのために用意したけれど、昨日みたいにうまく姿が見えるかはわからない。それでも柔らかな彼女の空気はちゃんと感じる。自然に口元が緩んで、気持ちもほぐれていく。昨日と同じだ。  Player ARATA! コールされ、ゆっくりと舞台にあがった。グランドファイナルのチケットは当日販売も含めて早々に完売。チケットがとれなかった客のために、ホール前に大型モニターを設置して、急遽パブリックビューイングがされるほどの盛況ぶりだから、会場内は当然びっしりと観客で埋め尽くされている。  薄暗い空間から巻き上がる大きな歓声の渦。眩しいライト。  そんな熱狂の中心にたっているのに、驚くくらい新太は動じていなかった。まるで台風の目の中にいるみたいだと思う。体の内側に沸騰しそうなほど昂る熱を抱えているのに、頭は冴えてクリアなのだ。
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