第二十二章 未来を掴め

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 神谷もコールされ登場し、会場は更に大きな盛り上がりをみせる。握手して会釈する。対戦前は何も話さない。お互い目をみて頷きあうだけだ。   ゲームモニター前の席にすわり、コントローラーをセットし動作確認を終え準備完了。大きく息を吐く。ふと、さくらの視線を感じた。それは新太の横顔を優しく撫でる風のようで唇に笑みが浮かぶ。 (さくらさん、見ていて)  ここから意識を己の内面へ、一気に集中させていく。まるで深い海にダイブするように、まっすぐ一直線に。  ライトが消え大観衆の視線は、会場を煌々と照らす舞台上にある大画面に集まっていく。 「Round1 Fight!」  場内アナウンスに重なり合って、大歓声が会場を揺るがした。  グランドファイナルは一試合(ゲーム)三ラウンドのうち二ラウンド先取、先に三試合(ゲーム)取ったプレイヤーが勝者になる。  出だしから神谷が圧倒的に優勢に進めていく。正確無比な攻撃で新太からいくつものKOを奪い、あっさり二試合(ゲーム)を先取してしまった。  だがこれも新太の作戦だった。じっと耐えて機が熟すのを待つ。  神谷が使用するキャラクターの特性はわかっている。問題は攻撃のリズム、技の仕掛け方、タイミング。過去のデータはあまり役にたたない。もちろん多少の癖はあるけれど、その場その場で、自在に変えてくるからだ。  神谷が長年王者であり続ける大きな理由のひとつは、これらの攻撃スタイルが多彩でかつ、膨大な練習量と経験によって熟成されているところだ。対戦者は翻弄され対応しきれなくなってしまう。逆に出方を探ろうとすると、今度はその待ち姿勢につけこまれて、自らから崩れて負ける。
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