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ゲームカウントニ対ニ。瀬戸際で神谷のリズムを崩して、タイにまで持ち込んだ。
新太は大きく吐息をつく。ただし油断はできない。神谷の金縛りもそろそろ解けてくる頃合いであることを、新太もよくわかっていた。決戦の最終試合間違いなく全力で取りにくる。
ペットボトルの蓋をあけて、ミネラルウォーターを喉に流しこみ、手の甲でさっと唇を拭った。
大丈夫、集中は切れていない。というよりこの瞬間、瞬間が終わってしまうのが惜しいとさえ感じている。それくらい新太のなかで、何かが突き抜けていた。大歓声も会場の熱気も、俯瞰してみているような不思議な感覚だった。
神谷とがっぷり四つに組み、今ある力をとことん出しきり、大舞台の上で戦う。こんな機会なんて、限られた人間にしか与えられない。新太の口元に笑みが浮かぶ。
(格ゲー、やっぱ楽しい)
プロになり、趣味が仕事になって正直キツイと感じることもあった。スランプに陥ったときは、血を吐くようにもがき苦しんだ。けれど今、純粋に格闘ゲームが楽しい、そして気持ちがいい。昔、初めて格闘ゲームを知って夢中になったあの頃に近い感覚。
ゲームモニターを見つめる。使い馴れたキャラクターが、新太の指令を待って、体を上下に揺さぶっている。
興奮と冷静さがいま、完璧なバランスで新太のなかにあった。ゆっくりと左手でスティックを指に挟んで握り、右手をボタンの上におく。キャラクターと新太が重なる瞬間。
『Round 1! Fight!』
新太の指先は、なんの迷いもなく動き出した。
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