第四章 恋情

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 考えれば考えるほど、一番してはいけない時期に、一番想いが通じなさそうな相手に恋してしまったと、新太はため息をついた。 (思いきって告るとか)  たとえ振られてもスッキリするかもしれない、そう思ってみたりもした。 (イヤイヤイヤ。振られたら振られたでダメージが半端なさすぎて立ち直れないかも。授業は一年間一緒だから、会うたびに落ち込むよ)  すぐさまもう一人の自分が反論する。  さくらのことが頭から離れない。心を止められない。誰にもさくらを渡したくない。誰にも触れてほしくない。そんな想いが頭のなかをぐるぐるまわる。  さくらへの想いと独占欲は、新太の意志とは関係無く膨れ上がり、心を支配してしまいそうになる。とにかくこの無限ループをどうにかしなくてはいけない。   「今するべきことはトレーニング、だ」  自分の中で蠢くカオスに無理やり蓋をするように、声にだしていってみる。  対戦がはじまる前や劣勢に陥った時、動揺を抑えるために新太がよくやる自己暗示だった。声にだしてそういうと、心の揺れが多少マシになった気がして少しホッとする。  すぐにヘッドフォンを耳にあてる。コントローラーのうえに手を置き、集中するために目を閉じて大きく息を吐き呼吸を整えた。 
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