第二十二章 未来を掴め

6/11

250人が本棚に入れています
本棚に追加
/253ページ
 五 試合(ゲーム)目は、ゲーマーの意地と意地がぶつかりあう壮絶な戦いになった。一ラウンドはタイムアップぎりぎりで新太がKOを奪取、勢いに乗って勝利に王手をかけたものの二ラウンド目、神谷が驚異の粘りをみせた。  新太の鉄壁の防御をかいくぐり、針の穴を通すようなテクニックで連続技をヒットさせKOを奪い返してきたのだ。完全なイーブンとなり、泣いても笑っても次のFinalラウンドですべてが決まる最終局面を迎えた。割れんばかりの大歓声が会場を包み込む。   痺れるようなギリギリの攻防のなか、逆境にもプレッシャーにも負けないメンタルの強靭さ。最後まで絶対に勝利を諦めないねばり強さ。 (すげえな大介さん。やっぱり半端ない)  新太は神谷のゲーマーとしての飛びぬけた高い能力に改めて感嘆すると同時に、その底力をまざまざと見せつけられた気がした。まさに彼が王者たるゆえんだ。  新太は胸を大きく上下させ呼吸を整える。ヘッドフォンを一旦外し、リセットするように首をふったその時だった。客席にいるさくらを見つけた。  祈るように両手を固く握りあわせ、眉を寄せ、あの黒目勝ちの瞳で新太をまっすぐ見つめている。思わず口元が緩む。彼女のすべてが、どうしようもなく心に響く。ただただ、愛おしい。  (俺は一人じゃない。さくらさんと一緒に戦ってる)  余計な力が抜け、すっと背筋が伸びる。あの愛しい人とこれからずっと一緒にいるためにも、どうしたって神谷という大きな壁を越えていかなくてはいけない。新太は思い出す。さくらを本気で好きだった男から言われた、本気のエールを。 『今度のEVCは絶対取れ!』
/253ページ

最初のコメントを投稿しよう!

250人が本棚に入れています
本棚に追加