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場内の空気をも揺るがすような割れんばかりの歓声と拍手で、新太ははっと我にかえった。
(勝った?)
ヘッドフォンを外すと、場内はスタンディングオベーションだった。歓声が鳴り止まない。呆然と会場を眺める。現実から隔てられた薄い膜に包まれて、そこから外界の興奮を見ているような気がした。その膜を破ったのは神谷だった。いつのまにか新太の横に立って苦笑していた。
「おめでと。完璧にやられたわ」
新太もすぐ立ち上がると、神谷がすっと手を伸ばしてきた。新太もその手を握りしめ頭をさげる。
「ありがとうございました」
神谷の手の熱さを感じて、ようやく現実味が帯びてきた。神谷は鼻の頭にちょっと皺を寄せて苦笑した。
「今日のお前、一体なんなの? ちょっと神がかっていたんだけど。最後は手も足も出なかった。これもさくらちゃん効果?」
新太と神谷は同時に客席のほうへ視線を投げる。神谷が穏やかに笑った。
「お前の勝利の女神、泣いてる」
さくらが満面の笑みで、拍手しながら涙をこぼしていた。新太と目があうと、手の甲で涙を拭い恥ずかしそうに微笑んだ。それをみた新太の身体が勝手に動き出す。自分でも止められない。
「あ、おい! 新太! インタビューは?!」
背中に神谷の声を聞きながら、新太は舞台から飛び降りた。
(前にも同じことしたよな、俺)
懲りない自分に笑いを噛み殺しながら、客席がどよめくのも構わず走る。一気にさくらの目の前までくると、涙で真っ赤になった目を大きく見開いて新太を見つめていた。
「あ、新太くん?!」
腕を引っ張って通路のほうにまで引き寄せ、強く抱きしめた。
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