エピローグ

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 まず第一にさくらをずっと大事にすること。第二に、プロゲーマーとしては現状勝率が安定していて、国内外の格闘ゲームトーナメントもかなりの確率で上位に食い込んでいること。仮にゲーマーを現役引退しても、この業界に携わる仕事をずっとしていくつもりだということ。ついでに自分は三人男兄弟の次男坊で、実家の小児科クリニックは大学病院勤めの兄が継ぐだろうこともしっかり伝えた。    とにかくアピールできることは全部アピールした。ただし一番効いたのは、プロの勝負師らしい、絶対に諦めない新太の姿勢だったかもしれない。  普通の男なら気が滅入るだろう、さくらの父親との度重なる話し合い。けれど新太は毎回礼儀正しく、かつ、きっちり説得しようとする真摯なひたむきさにあふれていた。それはプロゲーマーとしての姿勢でもあり、彼自身の生きる姿勢でもあった。  そんな新太と何度も顔をあわせ、彼の人となりに触れるうちに、この男なら職業が何であろうと大丈夫と父親も思ったのかもしれない。幾度となく持たれた話し合いの後、頑なだったさくらの父が折れた。とうとうふたりの結婚を認めたのだ。  新太の喜びようは、もしかするとEVCで優勝したとき以上だったかもしれない。今日は遅いからまた日を選んで今度にしようといっても、せっかく二十四時間提出できるのだからすぐにする! そういって新太は誰が何を言ってもきかず、実家からの帰り道、いつでも出せるよう常時携帯していた婚姻届を、そのまま区役所に提出したのだった。
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