エピローグ

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 新太らしい、一度決めたらテコでも動かない強引さとせっかちさ。母親に、新太くんはさくらのことが本当に好きよねえとからかわれるたびに、さくらは赤面してしまう。  籍もいれ式も終え、二人で住める広さのマンションに引越しをして半年。たまに喧嘩をすることもあるけれど、結婚してからのほうが、二人の間にある空気がより柔らかく優しく、密になっていくのを感じていた。  一緒にいると居心地がいい。リラックスできる。だけどちょっとくすぐったいような照れもあって。結婚前に五年も付き合ったのに、ちゃんと新婚さんなのだ。 「そろそろ仕事行かなきゃ。朝ご飯、ラップして置いてあるから食べてね」  さくらが自分の使った食器をシンクに下げようとたちあがった。 「皿、置いといて。俺、食べ終わったら自分のと一緒に食洗機にいれるから。あ、心配しなくてもシンクまわりも拭いときます」  新太の言葉にさくらがくすりと笑って、ありがとうと微笑む。トレンチコートを羽織って、首にショールを巻き玄関に向う。  新太も見送るために立ちあがった。パンプスをはいて新太の方に向き直ると、いつものようにぎゅっと抱きしめられる。  毎日の儀式。新太はさくらが出勤する時は、どんなに眠たくてもこうして起きて、ハグしてから勤め先におくりだす。  新太の香りに包まれるとほっとして大きな吐息がこぼれる。新太の腕のなかが一番落ち着くと、さくらは彼の肩に頭を預けながら思う。 「今日は早く帰れそうなの?」  さくらは大手銀行の本店業務部に勤めていて、忙しいときは帰りが夜九時を過ぎることもある。
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