第五章 ARATA

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 小教室でのゼミディスカッション後、席を立とうとしていたさくらに司が、ちょっと時間ある? と声をかけてきた。  さくらの隣に座っていた朋美が、あれ三井、またさくらに告るの? なんてからかうと、まあね、と余裕ある表情でにやりと笑う。    お邪魔だから先にカフェテリアに行ってるよ、と朋美は軽く手を振っていってしまう。ゼミ内で司がさくらに絡むのはいつもの光景だった。 「どうしたの?」  「だから、さくらに告ろうと思って」 「嘘。さっき声をかけてきたとき、そんな雰囲気なかったし」 「結構俺のことわかってるじゃん」  司が目元を緩めて楽しげに笑った。 「つきあいも一年以上だしわかるよ。それで? どうしたの?」  さくらが苦笑しながら司を見上げると、彼はスマホを机の上に置いた。 「ほら、こないださくらと一緒にいたジャニーズ系。あいつが誰だかやっと思い出した」 「新太くん?」 「そうARATA。先に名前を聞いていればもっと早く思い出せたんだけどな」  スマホを操作し動画アプリを起動させる。その映像をさくらも一緒にのぞき込んだ。  派手なライトが点滅する華やかな舞台が映し出された画面。アップビートな音楽が流れ、さくらもみたことがある芸人と女子アナが、司会進行として登場して、場をさらに盛り上げる。 「なんのイベント?」 「eチャンプっていう格闘ゲームの世界大会。会場は日本なんだけどね。知らない?」 「格闘ゲーム……うん、知らない」  司が動画を早送りして指を離すとSemi Finalの文字が画面に浮かび上がる。 『player ARATA!』  ノリのいいコールが会場に響く。大きな歓声が沸き上がったあと。見覚えある少年がクールな表情で舞台に登場した。思わずさくらは瞳を見開いた。
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